寿命を迎えかけた老犬と目の見えない散歩をした日記

日曜の午後、犬に会いに行った。

もう13歳だかになる柴犬で、最近体調を崩して一時はこのままお葬式かなというくらい弱っていたのだけれど、すこし回復したという事でお見舞いということになった。なんだか11月らしくない暖かさで誰かに会いに行くには丁度いい日だったし。

昔は玄関先まで行けばもう嬉しそうな鳴き声が聞こえてくるような犬だったのに、こちらに背中を向け庭で丸く静かになっている姿を見ると寿命を終わろうとしているんだなぁという感想。悲しいとかではなく、とても丁寧に生きているように見えて「羨ましい」?「落ち着く」?うまく言葉を当てはめられない。無理やり近そうな言葉を持ってくると、「よく噛んで消化する」みたいな気持ちになった。

鼻も目も耳も三半規管もダメになってしまっているらしく近づいても動かず、背中を触ると驚いて少し飛び跳ねそうになった。不安そうに距離を取ろうとするので鼻に手を近づけてあげるとようやく誰だかわかった様子で嬉しそうに舐めてくれる。

 

慣れている庭だからか庭を歩くと後ろをついてきてくれる。目が見えないはずなのになぁと驚く。食事ができなくなってきているので痩せてしまい若い頃の精悍な顔立ちに戻っている。1年前はまるまるしていたのに。

だいぶ回復したらしいが若干足を引きずるような歩き方をする。急に倒れて病院に運び込まれた時はまっすぐ立てず段差があると落ちてしまっていたらしい。でも好きに歩きまわっている姿は若いころそっくりで、本当にいつまで経っても変わらないなと嬉しい気持ちになる。

自分がまだ10歳かそこらの時、最初に会った時は生まれたばかりの子犬だった。本当に馬鹿でやんちゃで暴れん坊で年下の生き物だったのに、今では自分より大人びた生き物になってしまった。昔はこちらが世話をしていたのに今では保護者のような顔をして寝る時枕のそばで見張ってくれたりする。

 

背骨まわりをマッサージしてあげると喜ぶと言われたので背中を揉んであげたり、ブラッシングで毛並みを整えてあげたりした。庭に出る時の段差が怖いようなので近所の公園でブラッシングする。

鼻が効かないので風向きが変わると急に近くの犬に気がついてそわそわし始めたり、妙に人間臭い動きをする。目が見えない平衡感覚もないはずなのによく走る。怖くないのか。昔は呆れるくらい散歩し続けていて帰りたがらなかったのに、体力も落ちて鼻も効かない今ではどこを歩いているのか分からないらしく上手いこと歩かせるとすぐに家まで帰れてしまう。

公園には小学生達が集まっていて、ブランコで遊んだり鬼ごっこをしたりしていた。年金の話を電話でしている老人もいた。自分は老犬をスケッチしたりブラッシングしたりしていた。

秋だけれど今年は去年よりも更に秋感がない。夏のような日と冬のような日ばかりで秋らしい日が少ない。変な天気ばかりが続く。空気も日差しも温かい不思議な空気に秋の高い空が合わさった今日の天気はエンディングのようだなと思った。盛り上がる時間は過ぎて、後はゆっくりとフェード・アウトしていく感じ。

帰る時、玄関で靴を履いている時、もう犬には自分が知覚できていなかった。見えない聞こえない匂わない距離まで離れてしまったから。「また来るね」と何度言っても手を振っても独りぼっちで寂しそうな犬の姿に今日はじめての哀しさを感じた。安心できるようにずっと触っていてあげたいと思った。

来年はもう居ないだろうな。

墓参りするなら今日みたいな暖かい秋が似合う犬だろうな。