小説の習作:太陽 整理整頓 ハンカチ をテーマに

最初におかしいと感じたのは、温かさを錯覚するざらついた手触りだった。

数千のプラスティック・ボックスが積まれた宇宙ステーション。その中にたった一つだけダンボール箱が紛れ込んでいたのだ。
「地球行 品物コード2004:美術品」
三十年前の品物コードだ。まだ何かを人に送りたいと考える人間がいた頃の。
汚れ、破れかけたダンボール箱には亀裂がいくつも入っていた。規則では容器の穴は塞がなくてはいけない。しぶしぶプラスティック・テープを取り出し、内容物の確認をしようとするとー

火傷ではない。
微かに湿り気のある37℃の体温。静かな息遣い。熱を感じたのは何十年ぶりだろう。
密航者は捕まえ、処罰する規則なのだ。
何のために?百年前の法律で、いったい何を処罰するのだ?

まだ人類が宇宙に熱を感じていた時代、俗にいう「宇宙開拓」の時代にはたくさんの人間たちが船員としてではなく荷物として宇宙を目指した。資源のない、未来のない、冷たくなっていくだけの地球を逃げ出そうとしたのだ。
もっとも、その殆どは死体で到着した。新天地への熱い憧れは宇宙の絶対零度に負け、「人類の記憶」として運びだされたミイラたちと同じ姿になって。
開拓し尽くすことのないフロンティア、広い宇宙のどこかに友人の見つけられるかもしれないという夢に取り憑かれ、数百数千の宇宙船が旅立ち「宇宙艦隊」が「宇宙海賊」を追いかけた時代が確かにあったのだ。
根拠の無い熱意はたった一世紀で打ち破られることになる。いや、凍りついた。冷たい宇宙空間に野心の熱を奪われ、宇宙のどこかの仲間を探して旅立った人間達は、異星人として新天地に住み着くのがやっとだった。
だが、この少年は帰ってきたのだ。
プラスティック・テープで亀裂を塞ぎながら自問自答する。見逃したとして、未来があるのだろうか。高温で落下するコンテナの中で生き延びられるとでも?
いや、未来がない密航だからこそ意味があるのだ。宇宙の絶対零度に心を凍らされることなく、かつて新天地に恋い焦がれた人間達と同じように荷物に潜り込んで。
貨物船とは名ばかりの、ゴミを満載したコンテナが出航する。
住むべき人間を失った抜け殻の地球に、コンテナいっぱいに詰め込まれたゴミと1人の少年が落下していく。